【短編】とじようの現実郷

エッセイと俳句。 最近はたまに小説。 人質を解放してください。

10分⑤

このシリーズは寝る前の10分を使ってダラダラ喋るやつです。

 

なんでも人に言ってしまうタチである。

口が軽いとかそういうことではなく、その場でおもろいかなと思ったことはすぐ口にしてしまうという意味である。

ブログやってるから、とか金だけはあるからな、とか学生時代はこうやったから、とかそんな大した功績もないのに、すぐ自慢してしまう。自慢にすらなっていないが、自慢ばかりするやつはあまり得意じゃないという軽蔑もこめて、これを自慢とすることで改善していきたいと思っている。

 

どうありたいかと言うと、実は、でありたい。

 

実はな人間。

実は年収1000万でありたいし、実は首席でありたいし、実は優勝していたいし、実は佳作でありたい。

聞かれるまで答えず、何かあった時にサラッと言ってやりたい。謙虚でありたい。ひけらかしたくない。耐え忍べるようになりたい。

めっちゃ賢い人は相手のレベルに合わせて話すからそれを感じさせないはずだし、めっちゃ強いボクサーはリング以外で人を殴らない。

超賢い人が驕らずどんなことにも学ぶ姿勢に前向きなのがかっこいいし、超強いボクサーはリング以外で人を殴らないのがかっこいい。

リング以外で人を殴らない。

人を殴らない。リング以外で。

 

美味しいものは最後に取っておくタイプのくせに、自慢もどきだけはすぐ口に出してしまう。耐えた上で満を持して登場させてやりたいのに。そんな功績もないけど。

というわけで今度、全く見えないところにタトゥーを掘りに行こうと思います。

10分④

完全に忘れて寝るとこでした。これは寝る前の10分でそれなりの文字を綴るというやつです。お願いします。

 

理解できない概念がある。

コク。

たまにイキッて使う時があるが、コクというものをあまり理解していない。そもそも理解出来ている人はいるのか?

味の深み的なことなのだろうが、正直全貌が見えないまま使っている。ふわっとしている。私の発したコクトイレ言葉にコクがない。

これ系で言うと音楽のベースも実はあまりわかっていない。ベースなんて正直聞こえたことがない。ライブやソロならまだしも、初見でJpopを聞いてベースがいいとかいう奴は奇を衒いすぎではないか。

プレミア公開や新曲発表の初見の感想でいきなりベースに触れるやつどういうつもりなんだ。君がベーシストならまだしも、なんも知らんやろ。

ベースの演奏がいいと曲にコクが生まれる。

ベースの食材がいいと料理にコクが生まれる。

 

 

正直な所、コクとかベースとか人よりちょっとわかってるけどわかってる感じだしてるやつださいから一周まわってわからんフリしてる節がある。その方がイカすと思っている。それがかっこいいと思ってるけどそんなこと言うてるやつが1番ダサいという所までわかっている。

 

私はいつも何も出来なくなるのである。

10分③

これは寝る前に10分でそれなりの文章を書くシリーズです。

 

パチンコにハマらない。

正直賭け事は面白いと思う。でかい金額を賭けてみたいとは思う。でもパチンコの良さが分からない。せっかちで飽き性すぎて耐えられない。

成人式に出席せずに行ったのが初パチンコだった。最初だし当たるだろうと思って行ったら全然普通に当たらなかった。まあその時は当たってないのでもちろん楽しくなかったのだが、後日付き合いで行くことになった時にそれなりに当たった。全然おもんなかった。正直当たってようが当たってなかろうがやることは変わらない。せいぜい手首の角度くらいだ。はよ終わらんかなと思っていた。せっかち。ずっと同じところに座ってずっと同じ体制で居れない。飽き性。相性が悪すぎる。スロットに関してはほぼライン工じゃないか。ターゲットをセンターに入れてスイッチ!の繰り返しだった。ほぼバイトやん。バイトがいちばん嫌いやねん。

どんな人間でも平等に賭け事ができる空間、と言っている人がいてすごく腑に落ちたが、よう考えたらなんか設定とか見出すやつおるし平等じゃなさそう。

しかもパチンコ、当たってもせいぜい数十万と考えると夢がない。バイトだと思って時給換算すれば、当たった場合は外科の名医くらいの時給になるんだろうが、もっと夢を見たい。賭けるなら、賭けに出るなら名医を超えたい。神のようなメスさばきで奇跡を生み出す命の芸術家、時代が望んだ天才外科医、ブラックジャック

この辺で、サレンダー。

10分②

この文章は、私が寝る前におおよそ10分で書き上げるシリーズでございます。口語とか文語とか特に考えず、できるだけ指をとめずにフリックしてゆきます。

 

なんとなく今日もやります。今月中は更新することを目標にしようかと思います。

 

お菓子という言葉がすごくムズムズするというか、発するのが恥ずかしいと思っています。言葉自体に「お」が付いていてかしこまった感じなのに可愛すぎることと、抽象的すぎるのが使えない要因だと今のところは分析しています。

お菓子、お恥ずかしい。

「お菓子たべた」とか「お菓子たべよ」とか「お菓子買お」とか抽象的過ぎるのではなかろうか。甘いのか辛いのか、スナックなのかグミ系なのか、それによって全く意味が変わってくると思うんですよね。情報が少なすぎるというか、もうちょっとこっちに寄り添った言い方をしてほしくて、痒いところに手が届かないムズムズです。

 お菓子の「お」についても、むず痒い要因です。なんで「お」がついてるんでしょうか。昔はお菓子なんて、効果で滅多に見られないありがたいものだったとかですかね。昔テレビで外国人が名詞に「お」がつく理由が分からないと言っており、専門家が大豆製品につく傾向があるよと言っていました。お菓子もお茄子もおうどん、例外だらけじゃないですか。外国人もそう言って論破していました。かといって菓子といっても抽象度はクリアされていない上、なんか育ち悪そうなので解決されない。

あとなんか単純にお菓子って言葉が子どもっぽすぎて言いづらい。小学生のころ家に遊びに来てはニコニコでお菓子を出せという奴がいたが、そいつを連想させるのも原因や。

 

 

なので小腹がすいていて、ちょうどいい食べ物を買うことを提案する時は、なんか買う?に続けてじゃがりことか、と言っています。グミ食いたい時はグミやし。ラムネ食ってから待ち合わせした時はラムネ食ってきたって言う。お菓子食べてきたとは言わんよ。

 

クオリティが低い。終。

 

 

10分①

お久しぶりです。

最近はブログっぽいブログを書いていなかったので、書きたいと思いたち、あんまり考えすぎるのもなということで今10分測りながら書き始めました。

糸井重里のほぼ日に憧れて、ゆるいコラム的なものを書こうと思います。クオリティは低い。上げていく。

 

パソコンのペイント機能とかでマウスで絵とか文字とか書く時ってみんなぐにゃんぐにゃんになって愛おしいですよね。

めっちゃくちゃ仕事が出来る上司がマウスで文字を書いた時に、小学生男児くらいの歪み方をしていてとてもいいなと思いました。

人間を好きになるきっかけって、くせ以外になくないですか。その人が生活の中で何を思い何を行動したかというものが蓄えられたものがくせで、性格にも外見にも現れるものだと思います。だからその猫背とか抑揚とか歩き方とか矯正しないでほしいと思います。前も書きましたね。ついでに歯の矯正もしなくていいです。一番愛おしいやろ、それ。くせでは無いか。でも噛み方とか笑い方に関わってくると思います。

 

擬似的に愛おしい癖を作れる装置として、マウスで文字書き、お絵描きは貴重な存在と言えるでしょう。

 

こんな感じで、思ったことを書くという習慣をつけて脳を劣化させないようにしようと思います。

ていうかラジオがやりたくてこれ書き始めたんでした、全然やってくれる人がいないので、募集中です。おもろい人限定です。

ありがとうございました。続くのか。

 

 

実は最初5分にしたけど足らんくて倍にした。

【単発】派手

 知ってたと思った。分かってたわ、と。

 手作りであろうくす玉が割れて、思ったよりも早いスピードでスパンコールと紙吹雪が降り注ぐ。雪というより雨だ。水溜まりみたいになった紙吹雪に目を落としながら、いつもはクラシックが流れていたことを思い出していた。頬がより一層熱くなった気がしたーーー

 

 

 ほんの数十分前の話だ。休みだったので、自宅でダラダラとしていた。寝そべりながら、スナック菓子と炭酸飲料を嗜む時間は至福だ。起きてそのままの格好、乱雑なベッドの上で動画を見ていると、現実を忘れることが出来る。

 最近買ったステンレス製の氷のおかげで、炭酸飲料は薄まらず、しかも長い時間冷たいままだ。次の動画をタップする。1000度の鉄球は見飽きた。いつまでそれやってるんだ、1000度の鉄球ってなんだ、ステンレス氷の対義語じゃないのかそれは、などという考えが浮かぶ。

 そういえば小中と同じだった地元のアイツは、まだ動画を上げ続けているのかと思い立ち、人差し指で検索欄に触れる。その動作と同時に、何を検索しようとしたのか忘れてしまい、数秒間固まる。検索欄を凝視しながら、残り少なくなった炭酸飲料とステンレス氷を口の中にかきこんだ。ガリッと音を立てたのは氷ではなかった。

 

 

ーーー「おめでとうございます。」

下を向いていた私に対して、マスクをした女性たちは言った。

 どう考えてもそうだった。まあそれ系だろうな。入るか迷った。扉を開ける前からただならぬ雰囲気だったし、なんなら扉がガラスなので、外からくす玉や派手な飾りが見えていてお祝いムードだった。

 紺色のVネックを着た男が前に出てきて、くす玉から垂れている紙に書かれていることと同じようなことを言った。

「あなたで1万人目の患者さんです!!」

院内のボルテージが上がる。

 ソファに座っている男子中学生、お前はここがこの世でいちばん怖い待ち時間を過ごす場所だと言うことを忘れてしまったのか。周りと一緒になって勢いよく手を叩いている。

 1万人目って、歯医者でそういうの無いだろ。

 待合室は盛り上がりまくっている。歯医者がこんなに沸いているのを見たことがない。こいつらすごくわいてる。本日の主役ということだろうか、スウェット姿のままの私に、不織布マスクをした若い女性がタスキを掛ける。右肩から左下腹部にかかっているそれは、真っ白だった。どうしていいか分からず、キョロキョロしていると、紺色のVネックを着た院長が靴箱からスリッパを出すために屈んだ時、リーバイスを履いていることに気がついた。勘弁してくれ。奥歯が折れているのだ、こっちは。

 口の中の無惨な部分を噛み締め、食いしばりながら、歯が折れている、ということを言おうとした。しかし、痛みがあるからか上手く言い出せぬまま、ムードに流され、パーティは決められたであろう段取り通りにどんどん進んでいく。ついにはツンツンにとんがった帽子まで被せられる。不織布マスクの若い歯科助手は、箒で紙吹雪を片付けながら、

「びっくりですよね、恥ずかしいことさせてしまってごめんなさい。」

などと言った。そうじゃない。歯が、歯が折れているから赤いのだ。気が気でないのだ。ていうか片付けるの早いな。

 もう1人の中年の歯科助手が、スパンコールだけで良かったんじゃない、みたいなことをボヤいた時、一瞬二人の間に険悪な空気が感じ取れたが、やり取りを見終わらないうちに、

「豪華景品もあるので、楽しみにしていてくださいね。」

とリーバイスが言う。上がった口角から、ギラギラと不自然に白く光る歯が見える。それと同時に、なんでこいつは私が歯が折れている時に、歯がギラギラで下半身カジュアルなのだと腹が立ってきた。

 痛みに耐えながら、ぼんやりと受付の奥の壁に描かれている歯がモチーフのマスコットキャラクターを見ては、早く歯の治療をして欲しいことを反芻している。反芻する歯もないのに。この歯医者のカードにはあいつがいるんだろうか。

「さらにスペシャルゲストもいるので、登場してもらいましょう。」

まだ続くのか、いい加減にしてくれ、リーバイス。すごく歯がゆい思いだ。無いっていうのに、歯が。

 本棚が置かれているさらに奥にある、診察室であろうところから、猫背の男が登場した。それと同時に、歯に矯正器具を付けた小学生が舌足らずに大声を上げた。

「アンディさんだ!!!」

知らん。

 しかし、会場というか、ここは歯医者なのだが、この空間は異様な盛り上がりを見せている。

リーバイスが、みんなを制するように大きめなトーンで、

「皆さん、今回の企画を手伝ってくださった、YouTuberのアンディさんです。拍手を!」

かつてこんなに盛り上がっている歯医者の待合室があっただろうか。地獄の順番待ちをする空間は、ほとんどライブ会場と言っても過言では無いほどの盛り上がりだった。医療施設でこんなに騒いでるヤツらを見たことがない。

「アンディです!みなさーん、いつもご視聴ありがとう。」

大きな拍手が巻き起こった。

 なんだそれは。

 近づいてくるアンディが掛けている大きなメガネには、レンズが入っていないように見える。YouTuberってもっと派手じゃないのかと思うほど地味な彼は、隠しカメラがあるのか、虚空に対しても手を振っている。というか今は私の方が派手だ。ギラギラでツンツンの帽子、タスキ。何よりド派手に歯が折れている。最悪だ。

 テンションについていけず、うつむくと掛けられたタスキがひらりと動くのが見えた。よく見てみるとなにか刺繍されているではないか。白くて気づかなかった。歯の刺繍。それは真っ白い歯の刺繍だった。白地に白の糸で歯が描かれている。なんで白に白で刺繍してるんだ。そもそも歯の刺繍ってなんだ。

「改めておめでとう。1万人記念ということで、スペシャルゲストとして登場させてもらいました!僕のこと知ってますか。」

知らん。

私のテンションが下がる度に他の患者のテンションは上がっているようだ。

男子中学生がアンディのメガネのレンズが入っていないことを指摘してイジっている。いや、いつもこの感じのメガネじゃないのかよ。それならいつもは特徴無しじゃないか。

「もともと僕、この地域出身で、せっかくだから地元で企画をやりたいと思ってたんだよね。びっくりした?」

知らん。知ったこっちゃない。

 地元の地名を出したことで、また盛り上がり拍手が巻き起こる。いい加減にしろ。ここどこだと思ってんだ。

 アンディが私の反応を見て眉間にシワを寄せる。なんでこいつ喋らないんだと思っているのだろう。

 いや、待てよ、こいつ。こいつを知っている。

 この顔知ってるぞ。YouTubeやってた安藤じゃないか?

 写し絵を重ねたように、過去の安藤と目の前のアンディの顔がリンクした。

 その瞬間、私は驚きで口を大きくあけた。

 それを見ていた中年の歯科助手は、バンドエイドを巻いた右手の人差し指で私を指しながら、左手で自分の口を覆い、大きな悲鳴をあげた。

「歯が。」

私の奥歯に視線が集まっているのを感じると共に、会場が地獄の待合室へと戻っていく。本来の歯医者の待合室の暗さに。AIの「ハピネス」はどこかのスピーカーから流れ続けており、異様な空間だった。あのAIさんのポップスがクラシックかのような厳かなものに聞こえる。

 アンディを押しのけ、リーバイスが駆けつける。やっと治療してもらえる。トートバッグに入れた歯の破片はいつでも取り出せるようになっている。

 すると、リーバイスは、派手にやりましたね、とかボソボソいいながら、ゆっくりと歯の状態確認し、少し考えた後ハッキリと、無理です、と言った。

意味がわからなかった。は?と弱々しい声で聞き返すと、

「ウチは矯正専門の歯科なので、治療できません。抜くことは出来ますが、くっつけることは出来ません。」

器具がないんです。申し訳ありませんがほかをお当たりください、と続けた。

 本来地獄であるはずの空間に、別の地獄の雰囲気を上塗りしたこの待合室で、私はこんな格好で放心状態だった。今までのはなんだったのだ。じゃあなんで今患部を見たんだ。矯正のみって何。カジュアル歯医者かよ。だからリーバイスなのか?歯ぎしりしそうになる。

 アンディは私が知り合いということには全く気づかず、アドリブ力のなさを露呈しており、どこを見ていいのか分からないのか、ただ動かずに私のタスキを見て何かに気づいたような顔をしていた。

 というか元はと言えば、こいつのYouTubeを探そうと思ってこんなことになったのではなかったか。腹が立つ。ステンレス氷を食ったのは私だが。

 もうこの意味のわからない空間にいる必要は無い。少し愛着が湧いてきていた歯のキャラクターに背を向ける。一刻も早く他の歯医者にいこうと、かかとを踏んだまま靴をはこうとすると、リーバイスに止められた。

「待ってください、せっかく作ったので、」

と言われたので、パーティセットをつけたままだったことを瞬時に思い出し、タスキに手をかけながら、不機嫌に振り返ると、歯のキャラクターが描かれたクーポン券のようなものを渡された。


1万人記念 親知らず一回無料券

 

 

 

 

 

【短編小説】おす

 

 

 

 推しが死んだ。

 

 二次元の話じゃない。

 最近SNSのつぶやきや動画のアップロードがないなと思ってたら、突然タイムラインに流れてきた。

 むぎの推しが亡くなった。

 何度も読み返しても何回考え直してもその事実は変わらないみたいだった。

 暖房の効いた空間は、加湿器がついてるのに、不快な感じだったことは覚えてる。弟は隣の部屋でゲームをしながら、大声で盛りあがっていたけど、そんなことは気にならなかった。

 それからは頭が真っ白になっちゃって、あまり覚えてないんだけど、莉菜からのカラオケの誘いを断ったのは申し訳ないなと思ってる。

 

 すめらぎさんは配信者で、ネットで活動してる。ゲーム実況や実写動画をあげてて、めっちゃくちゃ熱狂的なファンがいるとか、金の盾をもってるのかではないんだけど、すごくすごく大好きだった。


 むぎは何不自由ない生活を送ってるなって思う。世の中の人はすぐ、生きづらいだとか、この国はもうおわりだとか言ってるけど、全然違うと思う。むぎだって、勉強できる訳じゃないし、運動神経もよくないし。全くできないことがあっても、それは個性だと思うし、武器になるということをテレビやYouTubeで知った。おバカなタレントは大人気だし、運動神経が悪いサンダース平沢もバラエティで大活躍してる。なんでも捉え方次第って気づいた。むぎだって毎日ご飯は食べられるし、ベッドで寝ることも出来る。学校帰りにはカラオケや百貨店だって行ける。それだけで十分だと気づけた。もっと幸せになってやる!って気持ちがない訳では無いけど、こう見えて意外と色々考えてる。

 

 推しのすめらぎさんはむぎと一緒で、特になんの取り柄も無い感じだった。声がすごくいい訳でもないし、長時間配信するわけでもないし、ゲームがすごく上手いわけでもないし。かといって何も酷いことはない。イケメンって顔でもないと思ってる。正直そこまで劇的に人気が出ない理由だとも思う。失礼だけどね。

 でも、そこが大好きだった。個性がないのが個性みたいな。ファンにはむぎ達みたいに、なんでもない人が多かったんじゃないかなって思う。エグい環境で育ってきた人とか、ヤバい技を持っている人の配信も見ることはあるけど、むぎはそういう人のは共感できずにそれっきりになっちゃうタイプなんだろうな。


 亡くなる少し前、莉菜にすめらぎさんにDM送ってみなよ、って言われた。むぎはすめらぎさんを推すためだけのインスタアカウント持ってたし、SNS以外も関連する記事など全てにいいねとか高評価とかをつけてた。すごく好きなことを友達はみんな知ってたけど、でもコメントは一回もしたことなくって、勧めてくれたんだ。恥ずかしいし、迷惑かなって思って、全くしたこと無かったけど、やり方やマナー教えて貰って、文章を書くのは苦手だけど、愛が伝わるようにいっぱい考えた。

 すめらぎさんは見てくれたのかな。

 

「びっくりしたね、すめらぎのやつ」

と莉菜が言う。

 今朝もすめらぎさんが、交通事故で亡くなったってことがニュースでやってた。

 ギリギリでもなく、かと言って早くもない時間に学校に着いた人達が教室で談笑しているのが聞こえる。

「ほんとにやばい、てかカラオケごめんね。来週行こ?」

「いやいや全然いいって。むぎ大丈夫かなってずっと心配してたよ。」

 莉菜の席は1番後ろの端っこで、何かある度にたまり場になってるけど、今日は私の席に来てくれてた。

「この前一緒にDMおくったりしたよね。」

「うん。見てくれたかなあ。」

「きっと見てくれてるよ。推しが死んじゃうなんてエグいこと起こったことないからさ、なんて言ったらいいかわかんないけど、いつでも話聞くからね。私も見てみよっかな。」

「ほんとに。ありがと」

「いいよ、昼ジュース奢る。」

 

 

 サイヤクすぎ。

 時間を確認した時に思う。寝落ちしたせいでスマホの充電し忘れてた。遅くまで動画を見ていたせいだよ。アラームの設定出来てなかったから、時間ギリギリで。急いで準備して学校行かないと。今日は莉菜とカラオケに行く日だと思って、髪をかき上げながら頑張って起き上がる。最低限の準備で、玄関に揃えられたローファーを右左と履いて、いつもは頭からつま先まで見る鏡を横目に、玄関を飛び出し、自転車に股がった。

 何とか間に合って、朝礼が終わったあと、朝からサイヤクなことがあったって話しながら、いつも通り1番後ろの端っこの席で放課後の予定をたてた。

 

 温存してはたけど、昼休みには携帯の充電は3%切ってて、放課後にはとうとう切れちゃった。カラオケで充電すればいいか、と思ってたけど、よく考えたらママにカラオケ行くって連絡してなかったことを思い出した。

 むぎの家は、門限とかそんなに厳しい感じじゃないんだけど、どこかに遊びに行く時とか、ご飯食べて帰る時は報告しなきゃダメなルールがある。どうしよう。今日に限って充電器とか持ち充持ってる子もいないし、ちょっとやばい事になっちゃってるかも。莉菜のスマホで家に電話したとしても、今の時間帯は誰もいないし、ママとパパの番号も覚えてない。

 なんて、莉菜とはなしてたら、

「しゅう、インスタやってたよね。アタシのアカで、むぎのアカにログインして、DM送ってみたら?」

しゅうはむぎの弟。

「え、天才すぎ。」

莉菜は世界一面白い変顔をしながら、

「天才です。アタシのスマホでカラオケ行くって伝えてもらいなよ。」

スマホを受け取る。

「待って、パスワード覚えてないんだけど。」

「えっ、なんで?誕生日とかじゃないの?」

「入れたけど無理だった。」

「もー、アタシの天才返してよ。何入れてもだめなの?」

「うん、、、。ごめん。返す、、、。」

と言って、スマホを返そうとした瞬間に思い出した。

「あ!!推しアカなら入れるかも。」

すめらぎさんを推してたアカウントのパスワードなら覚えてる。なんてったって推しの誕生日に設定したはずだからだ。

「さすがすぎる。ファンの鑑じゃん。ガチ勢すぎてウケる。」

予想通りすんなりログインできた。

 このアカウントから、むぎのアカウントを探して、そのフォロワーからしゅうを探す。見つけたらDMしてしまえばいいだけ。しゅうが鍵アカにしてなかったのはラッキーだった。


                     カラオケ行くってママに伝えといて>

 

「てか、弟のアカウントに推しアカでDMしてんのもウケんだけど。」

むぎも世界一面白い変顔をして見せた。

 


 そのまま家の近所のカラオケに向かって、ちょっと歌った後に2人で、てか普通にここで充電して送れば良かったくね?ってなって爆笑した。

 すめらぎさんは2曲だけだけど、曲も出してて、夢中で歌った。何回も同じ曲を歌うのは初めてだったけど、莉菜もノッてくれてたし、気分が晴れた。カラオケってあっという間に時間が経つ。

 19時までフリータイム歌ったあと、自転車で大声で話しながら、途中の交差点で莉奈と別れた。

 時間見ようと思って画面をタップしたけど、全然起動しなくて、充電するの忘れてたってことに気づく。それくらいカラオケに夢中になってた。楽しすぎたから良しとしよう。

 家の駐車場の脇に自転車を止めて、家のドアを開けたら、ママが飛び出してきた。

「あんた、こんな時にどこに行ってたの!連絡したのよ!?」

ママが涙目になってる。

 あれ、そんなに遅くないし、連絡しておいたはずだけど。ちょっとのんびりしてたかな。さてはしゅうの奴ママに伝えてくれてないな。

「ごめんママ。充電切れちゃってて、しゅうには連絡したんだけど。」

ママの顔がさらに歪んだ気がした。

続けた言葉に驚いた。 

 

「しゅうが

しゅうが車に」