【短編】とじようの現実郷

エッセイと俳句。 最近はたまに小説。 人質を解放してください。

小説

【単発】派手

知ってたと思った。分かってたわ、と。 手作りであろうくす玉が割れて、思ったよりも早いスピードでスパンコールと紙吹雪が降り注ぐ。雪というより雨だ。水溜まりみたいになった紙吹雪に目を落としながら、いつもはクラシックが流れていたことを思い出してい…

【短編小説】おす

推しが死んだ。 二次元の話じゃない。 最近SNSのつぶやきや動画のアップロードがないなと思ってたら、突然タイムラインに流れてきた。 むぎの推しが亡くなった。 何度も読み返しても何回考え直してもその事実は変わらないみたいだった。 暖房の効いた空間は…

【短編小説】ファン

「ネカフェはほんま住めるで」 ずっとおれるわ、体育の日高先生が言う。 隣の席に座っている、英語の安田先生は、先輩の日高先生に対してタメ口混じりに嬉しそうに相槌を打っている。 教師になってから、というより社会人になってからは怒涛だった。歳を重ね…

【短編小説】最終

心臓が止まった気がして飛び起きた。 朝顔がもう萎み始めている。 確実に止まった心地がした。淋しかった。今まで胸の中でずっと動いていたものとの別れを思うと淋しかった。 妙に体が軽かった。早朝、一世一代の大仕事を終え、拙い足取りで何とかたどり着き…

練習

この逆剥けはもう手遅れだと思った。 もうこの真っ白な空間に来てからしばらく経つ。清潔に見えるが、本当のところどうなのか分からない雰囲気のこの病院は、特有の匂いで満たされている。ここに来るまでにすれ違ったのは老人ばかりで、いかにもその辺の病院…