【短編】とじようの現実郷

エッセイと俳句。 最近はたまに小説。 人質を解放してください。

ハンドソープ

 指を弄るのが癖だった。

 さかむけが気になってはちぎっては投げ、秒針を見つめてはさかむけを毟る。割れた爪を剥いてはゴミ箱に飛ばし、2枚爪を剥がしては息を吹きかけていた。

 高校生の頃この癖をどうしてもなおしたかった。血が出ることも少なくなかったし、ガタガタになった爪は見た目が不潔であるとかそんな理由だった気がする。

 高校に営業に来たお笑いコンビのトークが面白くなさすぎて、逆剥けをむいていたら、「ちょっとそこの子逆剥けいじらんといて〜」といじられたことがある。

 幼稚園の頃から小学6年生まで水泳を習っていたので、泳ぎ終わったあとは爪が柔らかくなっていて毟るのがたまらなく好きだった。水泳をやめてからは、朝礼や集会、ホームルームなど興味のない長い話を聞く時に指をいじることが多かったように思う。しかしある日、友人に俺が爪をいじっていたら殴ってくれとお願いし、癖を克服した。

 そう考えると高校生になるまで爪を切ったことがなかったと言っても過言ではない。

 その影響か爪を切ることが苦手で大嫌いだ。

 綺麗な形に切れないし、出来上がりには不満しかない。飛ぶと掃除が面倒だし、足の爪なんかはそもそも爪切りできるものなのかすらわからない。調べてみると、深爪は良くないだとか、四角く切った方がいいだとか、風呂上がりに切るといいだとか色々書かれているが、最近はかなり雑に切っている。そもそも爪は伸びるのが早すぎる。理想の長さ形で伸びなくなって欲しい。

 癖を矯正してなおすことは良い事なのだろうか。この歳になって書道の勉強をしているとより強く思った。字を繰り返し書いていると、模範に近づき、みんな同じになっていく。どう考えても良くない癖はあるが、字や人相に関するものは個性であるとも言えるだろう。癖をなおしていくと自分自身が無くなるのだろうか。

 私は猫背であり、猫背は一般的に体に良くないとされている。猫背について調べると頼りない印象だとかモテないだとかあることないこと書かれている。お前は誰や。だらしない人が好きな奴もおるやろ。

趣味嗜好は人それぞれなので、癖をなおしたからといって劇的に見られ方が変わるということはないと思う。指をいじるのをやめてから友達が増えた気もしない。だが二度と指をいじることはないだろう。

爪をいじってさかむけを剥いていた頃を愛おしく思う。

あのころの癖を思い出し、そう思うことが出来るということがメリットかもしれない。

 

みんなの歩き方とか笑顔の余韻とか好きやで

 


飽きたからおわり。書き足すかも