【短編】とじようの現実郷

エッセイと俳句。 最近はたまに小説。 人質を解放してください。

文学

【単発】派手

知ってたと思った。分かってたわ、と。 手作りであろうくす玉が割れて、思ったよりも早いスピードでスパンコールと紙吹雪が降り注ぐ。雪というより雨だ。水溜まりみたいになった紙吹雪に目を落としながら、いつもはクラシックが流れていたことを思い出してい…

【短編小説】おす

推しが死んだ。 二次元の話じゃない。 最近SNSのつぶやきや動画のアップロードがないなと思ってたら、突然タイムラインに流れてきた。 むぎの推しが亡くなった。 何度も読み返しても何回考え直してもその事実は変わらないみたいだった。 暖房の効いた空間は…

【短編小説】ファン

「ネカフェはほんま住めるで」 ずっとおれるわ、体育の日高先生が言う。 隣の席に座っている、英語の安田先生は、先輩の日高先生に対してタメ口混じりに嬉しそうに相槌を打っている。 教師になってから、というより社会人になってからは怒涛だった。歳を重ね…

【短編小説】最終

心臓が止まった気がして飛び起きた。 朝顔がもう萎み始めている。 確実に止まった心地がした。淋しかった。今まで胸の中でずっと動いていたものとの別れを思うと淋しかった。 妙に体が軽かった。早朝、一世一代の大仕事を終え、拙い足取りで何とかたどり着き…

完全めし

もずくなんて見た目は気持ち悪いし臭いも強烈だから食べられたもんじゃないと思っている、と早口で言った。気持ち悪いということを強調したトーンで。 さらに続けて、昔妹がフローリングに滑らせて部屋中がすごい臭いになった、ということも付け足した。 「…

サラリーマンショック!!

終電間際の最寄り駅の待合室で列車を待っていた。とても寒い日だった。1人だった待合室に第一ボタンの空いたサラリーマン風の男の人が入ってきた。遅い時間だ、仕事が忙しかったのだろうか。その人は疲れた様子で缶のコーンスープを飲んでいた。何故かその光…

お参り

屋台が並んでいた。縁日とかそういうものだったと思う。色々な屋台があり、ワクワクすると言うよりも沢山の色や文字を処理するので精一杯だった。どこかへと続く真っ直ぐな道の両脇に色々なお店が並んでいる。 手を繋ぐのが嫌いだった。特に両親や祖父母、叔…

劇場版

人を家に招待すると帰った時の喪失感が耐え難いので嫌だと1年前に投稿した。「おもてなし」参照 それとは逆で、グループでどこかに遊びに行った場合には、帰りに徐々に人数が減っていくという現象が起こる。 私はそれがたまらなく好きなのである。 普通別れ…

匿名性

1人で何かをすることに抵抗がない。 1人でファミレスやバーに行くし、1人で音楽フェスや美術館に行く。リラックマストアも1人で行くことが出来る。 誰かに1人で来ていると思われても気にしないし、全て自分のペースで事が運ぶからとても快適である。コンテン…

遊戯王

あいつはレアカードを兄にあげようと呟いた。あいつとその兄は喧嘩ばかりしているイメージだったが、自分のお小遣いで買ったパックに入っていたそれをあげるらしい。 兄弟のいないもう1人の彼は理解できないと言った。自分で買ったものなのだし、価値のある…

練習

この逆剥けはもう手遅れだと思った。 もうこの真っ白な空間に来てからしばらく経つ。清潔に見えるが、本当のところどうなのか分からない雰囲気のこの病院は、特有の匂いで満たされている。ここに来るまでにすれ違ったのは老人ばかりで、いかにもその辺の病院…

ポテ投げ(ほかす(ステル)公募投稿版)

アルバイトでフライドポテトを揚げた。フライドポテトが苦手という人は珍しく、極少数だと思っているのだがどうだろう。そんなフライドポテトも悲しい結末を辿ることがある。アルバイト先で販売されているフライドポテトは、ライバル店のように皮がついてい…

LINEバブル

LINEグループは極力抜けない方がいい。 苦手な人がいるグループだからといって退出しない方がいい。 いくら嫌いな人であっても、時間が経てば100%なぜ嫌っていたのだろうと思う日が来る。時間というものは全ての怒り、悲しみなどの感情を和らげる。 些細なこ…

ボウリングボーリング

懲りずに某屋内複合型レジャー施設に来ている。 ここではボウリングを初めとしとした、カラオケ、UFOキャッチャーやビリヤード、ダーツなどといった娯楽が楽しめる。今日も行き場のない若者たちがここに集まり、整理番号片手に自分の番号がパネルに表示され…

ほかす(ステル)

アルバイトでフライドポテトを揚げた。 ポテトが嫌いという人は珍しく、極小数やと思っているのだがどうやろか。 アルバイト先で販売されているフライドポテトは、ライバル店の皮がついていてホクホクとした半月型のものではなく、The フライドポテトと言え…

登りラーメン

中華そばの汁がレンゲに登ってきている。 勘弁してくれ レンゲの持ち手に汁が登ってきているという事はすなわち、中に落としてしまったということを表している。登ってきているという表現が適切かどうかは分からないが、斜面になっているレンゲの持ち手をみ…

ハンドソープ

指を弄るのが癖だった。 さかむけが気になってはちぎっては投げ、秒針を見つめてはさかむけを毟る。割れた爪を剥いてはゴミ箱に飛ばし、2枚爪を剥がしては息を吹きかけていた。 高校生の頃この癖をどうしてもなおしたかった。血が出ることも少なくなかったし…

駅を出て今日は冬至と人づてに

過ぎ去りて思い出せぬは金木犀

蜜蜂が地に落ちて胎児になりにけり

複縦陣進軍しろよ夏の雲

アイホンと腹を失くして仰ぐ蝉

夏空や 抜け殻なんぞ 顧みず

顔面に 浴びた蚊柱 唾棄すべし

四十雀 けんぱけんぱ けんけんぱ

サングラスつけとんちゃうぞ夜やんけ

夏布団定住せずに動きけり

西日刺し鼻腔に擦れる中古本

シャツすがたすあしで小突くゴールデン

吸い込んだサラピンの空秋近し