【短編】とじようの現実郷

エッセイと俳句。 最近はたまに小説。 人質を解放してください。

ボウリングボーリング

懲りずに某屋内複合型レジャー施設に来ている。

ここではボウリングを初めとしとした、カラオケ、UFOキャッチャーやビリヤード、ダーツなどといった娯楽が楽しめる。今日も行き場のない若者たちがここに集まり、整理番号片手に自分の番号がパネルに表示されるのを待っている。

密室空間がタブーとされている現代では、ボウリングは強い味方と言えるだろう。ボウリング場ほどクソデカい空間はパッと思いつかないし、こんな世の中に室内で遊びたい場合に重宝する。

しかし、私はボウリングに行くのをどうしても阻止したい。

何を隠そう、ボウリングが嫌いなのである。

第一に、動かないターゲットに対して玉をほおり投げて倒すだけのゲームのどのへんが面白いのだろうか。

仮に一緒にいたメンバーの中に、ボウリングの球をほるのがめっちゃくちゃうまい人がおったとして、盛り上がるかもしれないが、驚きは精々4周目までで、1ゲーム終わる頃には誰も見向きもしないだろう。

これがカラオケの場合だとどうだろう。ただ歌うだけだが、友人や同僚たちの音楽の趣味がわかり、新たな発見があったり、上手い下手で盛り上がったりすることが出来る。

あの日のカラオケ最高におもろかったな、という後日談は聞いた事があるが、あの日のボウリング最高におもろかったな、という話は聞いたことがない。

 

ボウリングは何人かで順番に基本的には2回ずつ、あるいは1回ずつ球をほっていくゲームである。投者以外の人間の会話が、いい感じに盛りあがってきたタイミングで私の番が来る。もっと会話したいのに球をほり投げにいかなあかん。意味がわからない。

しかも投者以外が会話している時点で主役のはずの投者は見られていないのである。コミュニケーションツールとしては破綻している。これはスポーツなのだろう。

このスポーツの気に入らない点はまだある。追加料金を払わせて、クソダサい靴を履かせてくる事だ。

自分の足のサイズをイマイチ理解していない私は、適当なサイズのボタンを押す。時間差で取り出し口に靴が現れる。

取り出そうとしても取りにくくて煩わしい。靴を履かせてくるのは百歩譲って許すとして、なぜお金を払わなければならないのかが本当に分からない。

どうやら自分たちの番が来たようで、呼出パネルに番号札が表示されている。事前精算を終わらせ、ボタンを押すと靴が現れる機械の前に行く。

普段は何も考えず27cmの靴のボタンを押しているが、私より二回り身長が大きい先輩がそのボタンを押すのを見て、26.5cmのボタンを押した。

 

これってどのタイミングで靴履き替えるのが正解なんや。

 

ボウリング場に着くと、名前大喜利が始まる。ほかの投者の名前を勝手に変えたり、アニメのキャラの名前にしたりやとかそんな奴である。このなんとも言えない地獄はちょっと好きかもしれない。

大喜利は下手

名前で遊び終わると、今度はボウリングの球の重さを選んで自陣に持ち帰らなければならない。

優柔不断で選択するということが苦手な私は、靴のサイズを何となくで選び、選択を回避したように、何となくみんなが使ってそうな重さのボールを選択する。

 

これってどの重さのボール選ぶんが正解なんや。

 

どちらにしろゲームが始まってからは、せっかちな私は自分のボールが帰ってくるのが待てず、隣の知らない団体のボールじゃないかを要確認し、友人のボールをほる。どれを選んでも同じである。

ゲームが始まった。1周目は全員が全員を見守っているのだが、上手い人がいない我々は案の定、2周目から主役を見ている人はいなかった。

主役が見向きもされないのが哀れで、自分が主役になった時が心配で、見向きもされないのが怖くて、1回1回リアクションをする。しかし、ボウリング場がクソデカいせいで私の声は八割方主役には届いていないようだった。次からはジェスチャーと口パクでなんとなく伝えようと思った。

ボウリングで楽しい瞬間はなんといってもストライクを取った時である。自分でなくても、他の人がストライクを取れば全員でハイタッチをする。日常的にみんなとハイタッチをする瞬間なんて、日本で暮らしていると皆無なので、非日常を味わうことが出来てとても楽しい。

そんな瞬間を逃さないためにも、主役の投擲をみつづけ、リアクションをし、エールを送っている。

このスポーツに些細な楽しさを見いだせてきたところだが、レーンの様子が変なことに気づく。おかしい。

ピンが再度並べられることがなく、いつまで経っても次の準備が完了しない。

 

ボウリングは定期的にバグるのである。

 

許せない。それなりのお金を払って、靴代もしっかり出し、幾度かの選択を経てここまでやってきた。必死にリアクションをし、ストライクが出ればみんなで喜部という、些細な喜びを見出したのに。5周目の碇シンジの2投目にそれは起こった。

 

ボウリングはなんか定期的に暗くなってイベントが始まるし、定期的にバグるスポーツである。

 

碇シンジがとくに無理な投げ方をしていなかったのは誰よりも主役を見ている私が保証する。

店員さんに見てもらうと、慣れた様子でインカムを飛ばした後、レーンが正常に戻った。あまりにも慣れている様子から、ボウリングは定期的にバグるということを裏付けられる。定期的にバグらないようにして欲しい。

つくづくボーリングなスポーツやんこれ