【短編】とじようの現実郷

エッセイと俳句。 最近はたまに小説。 人質を解放してください。

遊戯王

あいつはレアカードを兄にあげようと呟いた。あいつとその兄は喧嘩ばかりしているイメージだったが、自分のお小遣いで買ったパックに入っていたそれをあげるらしい。

兄弟のいないもう1人の彼は理解できないと言った。自分で買ったものなのだし、価値のあるものを人にあげるなんて信じられないと。

 

私は彼の気持ちがわかった。普通に考えると価値のあるものをすぐに誰かにあげたりしない。

 

私はあいつの気持ちがわかった。兄弟のいる人間としては兄弟に喜ばれたい、認められたいという感情があるし、与える喜びを知っていた。

 

当時は言語化できず、彼には「わからんやろうな」などと言ってしまったが、兄弟愛と与える喜びが入り交じったあたたかい行為であり、最大級の好意なのである。

兄妹がいて良かったと思った。