【短編】とじようの現実郷

エッセイと俳句。 最近はたまに小説。 人質を解放してください。

お参り

 屋台が並んでいた。縁日とかそういうものだったと思う。色々な屋台があり、ワクワクすると言うよりも沢山の色や文字を処理するので精一杯だった。どこかへと続く真っ直ぐな道の両脇に色々なお店が並んでいる。

 手を繋ぐのが嫌いだった。特に両親や祖父母、叔母と出かけると、自分が真ん中で手を繋ぐ。そうすると両手が塞がる。両手の自由がないと閉塞感があるし、ソワソワして落ち着かなかった。

 鳴き声が聞こえた。音のする方にに近寄ってみると、黄色くて小さな鳥が沢山入れられている箱があった。これもお店なのだろうか。

 ひよこつりや。両親はそう言った。

 ぴよぴよと鳴く生き物たちの上で、たくさんの大きな子達が木の棒を釣竿のようにゆらゆらと動かしている。それにひよこ達が食いつくのだろう。しかし、中にいるひよこ達は先端に付いた丸いものには気にもとめず、箱の中を歩き回っていた。

 箱の隅に動かないヒヨコを見つけた。よく見てみると竿の先端を喉を詰まらせたのか、苦しそうにぐったりと横たわっていた。まだ息はある。怖かった。動物の死など体験したことが無いし、ペットも飼っていなかった。店の端でそのような自体が起きているのにも関わらず、店の人やひよこを釣る大きな子達はそのヒヨコに対してなんの反応もない。箱から出してあげて様子を見てあげない店の人が異様に思えたし、遊び続ける大きな子達が不気味だった。両親は可哀想とだけ言い店を離れていった。あのコを連れて帰る子は居ないのだろうと思った。

 その後もしばらくその光景が頭から離れなかった。助けてあげたかったのかどうかはわからない。連れて帰っても育てることは出来ないという現実的なことだけは頭に浮かんでいたように思う。そのコと一緒に逃げたいわけでもなかったし、そのコと自分と重なった訳でもなかった。死というものを初めて強く感じた。それは誰にも見向きもされず、隅に追いやられた孤独なものなのだろうかと想像した。

 

 右手には母親の手が、左手には叔母の手が握られ、ゆらゆらと揺れていた。