【短編】とじようの現実郷

エッセイと俳句。 最近はたまに小説。 人質を解放してください。

【短編小説】最終

 心臓が止まった気がして飛び起きた。

 朝顔がもう萎み始めている。

 確実に止まった心地がした。淋しかった。今まで胸の中でずっと動いていたものとの別れを思うと淋しかった。

 妙に体が軽かった。早朝、一世一代の大仕事を終え、拙い足取りで何とかたどり着き、眠りについたとは思えない。背中に違和感があることを除いては、今までで1番心地が良かった。

 虫あみを持った団地の兄弟がじゃんけんをしているのが見える。負けたちいこい方は肩を落とし、不貞腐れながら目的もなく、ただ気だるげにおおきい方に着いていく。


 あの時、自分は死んでいたのかもしれないと思う事がある。私はあまり外には出ない。だが、執拗に犬に吠えられた日には、彼だけが何かを不幸を予期していて、本当はその日に自分は死んだのではないか、と思うし、不慮の事故が起きそうになった時には、実はその時死んでいて、今は夢の中なのではないかと。切れ目なしに続いているだけだと。

 

 数人で群れになっているおませな娘たちは、異性の話や、両親が最近話していた、深刻そうなことについて談笑している。頭も胸も腹もおおきい子の合図で何かが決まったのか、どうやら全員でどこかに行ってしまうらしい。食事の時間だろうか。

 そういえば目が覚めてから何も食べていない。身体が軽い分、すごくお腹がすいている感じがする。腸などの全て臓器がすっからかんになったようだ。体調はいいしご飯を食べに動き出そう。

 

 炎天下、私はちいこい方に回収された。

 ぬけがらだった。