【短編】とじようの現実郷

エッセイと俳句。 最近はたまに小説。 人質を解放してください。

サラリーマンショック!!

 終電間際の最寄り駅の待合室で列車を待っていた。とても寒い日だった。1人だった待合室に第一ボタンの空いたサラリーマン風の男の人が入ってきた。遅い時間だ、仕事が忙しかったのだろうか。その人は疲れた様子で缶のコーンスープを飲んでいた。何故かその光景がとてもいいものに見えた。すごく美しく、この人の為に世界は回っているのだとさえ思えた。一日の終わりのささやかな幸せなのであろうコーンスープ。決してバカにしている訳では無い。全て勝手な想像に過ぎないが、その人の一日、生涯さえも想像できるようなその場面がすごくいいと思った。人生のなんでもない部分を切りとったようで、人生なんてそんなものが大半なのだと思った。人生というものの全てがその瞬間に集約しているとすら言えるよさがあって、感動したのだ。

 

 数日後25日の昼間、同じ駅の待合室でその人を見た。まさかの再会だ。印象に残っていてメモまでしていたので間違いない。同じ格好で、同僚らしき人と会話しながら、箱を持って待合室に入って来た。どうやら2人はホールケーキの箱を持っているらしく、それについて会話をしているようだった。前にコーンスープを飲んでいた男の人は、ケーキの箱を開け、横からスライドさせるようにケーキを取り出した。食べかけだった。男の人は待合室で同僚と会話しながら、その食べかけのホールケーキにプラスチックのフォークを突き刺し、さらにケーキを食べ進めた。なんか普通にめっちゃ嫌だった。めっちゃくちゃ下品やないか。同僚と話す様子も、いいものではなかったというか、予想していた感じとは違うというか、仲良くできなさそうな感じだった。

 この前に美しくて崇高なものに思えたものはなんだったのだろうか。その男は食いさしだと母親が驚くだろうかなどと口にしている。ケーキを口に入れながら。だまれ、知らんがな、ママと住んどんかい。なんやねん。

人の背景を勝手に想像して自滅したのである。